UI/UXリサーチ / 戦略設計
ユーザーが迷わないUIをつくる!アフォーダンスとシグニファイアを理解し活用する実践アプローチ

ユーザーがWebサイトやアプリケーションを利用するとき、直感的に操作内容が理解できるかどうかは、UI(ユーザーインターフェース)設計の良し悪しに大きく左右されます。ここで重要となるのが、UI設計を行う際に必ず押さえておきたい基本概念、「アフォーダンス」と「シグニファイア」です。
本記事では、アフォーダンスとシグニファイアの定義や両者の違いを説明した上で、それらの考え方に基づき、WebサイトやアプリのUIの「わかりにくさ」の原因とその改善方法について解説します。
目次
1. アフォーダンスの定義と役割
「アフォーダンス(affordance)」とは、アメリカの心理学者ジェームズ・J・ギブソン氏が提唱した概念で、「環境(や物)が人に提供する行動の可能性」 を意味します。
例えば、ドアには「押す」「引く」「スライドさせる」といった複数の動作が可能な構造があり、その形状や構造によって使う人にさまざまな行動の可能性を感じさせます。押し戸は「向こう側に押せそう」と感じさせ、スライド式のドアは「横に動かせそう」と感じさせる構造になっています。
ただし、UX設計においては、ユーザーがその使い方に気づけるかどうかが重要です。ここで関係してくるのが「メンタルモデル」です。
人は経験や学習を通じて、「この形はこう使うものだ」といった思い込みや期待(=メンタルモデル)を持っています。ドアノブを見て「回すものだ」と感じるのも、人々が日常的にドアノブを使う際に「ドアノブは回して開けるものだ」というメンタルモデルが形成されているからです。
初めて日本を訪れた外国人が襖の開け方に戸惑うことがあるように、メンタルモデルは個人の経験や文化的背景に基づいて形成されており、それが新しい状況や物に対する理解に影響を与えます。
つまり、アフォーダンスが実際に機能するには、ユーザーがそれに気づく必要があります。その「気づき」を手助けするのが、次章で紹介する「シグニファイア」です。
2. シグニファイアの定義と役割
「シグニファイア(signifier)」とは、アメリカの認知科学者ドナルド・ノーマン氏がUXの文脈で提唱した概念で、「行動の可能性を示す視覚的な手がかり」 を指します。
例えば、ドアに取り付けられた取っ手の形状から「これは引いて開けるドアなんだな」と理解できる場合、その取っ手はシグニファイアとして機能しています。このように、シグニファイアは「アフォーダンスを特定するデザイン要素」と言えます。
Webサイトを例にとると、以下のように視覚的なサインによって操作の可能性を伝えるケースが挙げられます。

-
青色で下線が引かれたテキスト
「これはリンクで、クリックできる」と伝える -
影が付いたボタン
「押せそう」と感じさせる -
スライダーの両端の矢印
「左右に動かせる」ことを示す
このように、UI設計においては視覚的なサインを通じて、ユーザーが操作の可能性を直感的に認識できるようにすることが重要です。
3. アフォーダンスとシグニファイアの違いと関係性
アフォーダンスとシグニファイアは、ユーザーにとって使いやすいUIを実現するために欠かせない概念です。アフォーダンスをシグニファイアによって適切に伝えることで、より直感的に使えるユーザー体験を実現できます。
アフォーダンスとシグニファイアの違い
アフォーダンスとシグニファイアの違いを以下の表にまとめました。

前述の通り、アフォーダンスは 「オブジェクトそのものに備わっている行動の可能性」 であり、ユーザーが対象を見たときに「この行動ができそう」と感じる要因になります。これがユーザーにどう伝わるかは、ユーザーの知覚や経験、文脈に左右されます。
一方、シグニファイアは 「その行動が可能であることをユーザーに伝える視覚的なサイン」 です。例えば、Webサイトでボタンに影が付いているデザインや、マウスカーソルを合わせると色が変化するモーションなどは、「ここはクリックできる」とユーザーに知らせる手がかりになります。
重要なのは、ユーザーに認識させたいアフォーダンスがユーザーに伝わらなければ意味を持たないという点です。そのため、UI/UXデザインの文脈においては、特定のアフォーダンスに適切に「気づかせる」よう、シグニファイアを用いた工夫が欠かせません。
両者の違いを理解することで、それぞれがどのようにユーザー体験に影響を与えるのかが明確になります。次節では、この2つの視点が実際のUIの中でどのように関係し合うのかを解説します。
アフォーダンスとシグニファイアの関係性
アフォーダンスは、ユーザーが対象に対してどのような行動を取る可能性があるかを示す広い概念ですが、それ自体が行動を明確に示すわけではありません。ユーザーがその可能性に気づき、実際の操作に結びつけるには、アフォーダンスの中からどの行動を選ぶべきかを判断するためのプロセスが必要になります。ここで重要な役割を果たすのが、シグニファイアです。
シグニファイアは、ユーザーの注意をアフォーダンスに向け、知覚を補助する要素として機能します。アフォーダンスが設計に組み込まれていても、ユーザーがそれを認識できなければ、行動にはつながりません。
例えば、あるUIパーツが実装上は「クリックできる」ように設計されていたとしても、平面的なデザインで、クリックできない要素と区別がつかない外観だった場合、ユーザーには「押せる」と認識されません。これは、機能としてアフォーダンスが存在しても、シグニファイアが不十分なためにユーザー行動につながらない典型的な例です。
効果的なUI設計では、ユーザーが「自然に」「迷わず」操作できるよう、オブジェクトが持つ行動可能性(アフォーダンス)を、色や形状などのシグニファイアで確実に伝えることで、ユーザーの誤操作や離脱といったリスクを最小限に抑えることが求められます。
4. アフォーダンスとシグニファイアで整えるUIの課題と改善事例
アフォーダンスとシグニファイアの視点は、ユーザーが迷わず目的の操作にたどり着くためのUI設計において重要な役割を果たします。
本章では、まずユーザーが操作に迷ったり離脱してしまう原因を整理した上で、実際のサービスにおける改善事例を交えながら、どのようにUIを設計すべきかを解説します。
ユーザーの誤操作や離脱の背景
ユーザーがWebサイトやアプリを利用していて、途中で離脱したり、意図しない操作をしてしまうことは珍しくありません。しかし、その原因は「ユーザーの不注意」「リテラシー不足」によるものとは限りません。例えば、以下のようなケースがよく見られます。
<例>
- 見た目が本文フォントと同じで色の違いや下線もないため、リンクとして認識されない
- 立体的な装飾が施されているボタンのようなデザインなのに、クリックしても何も起こらない
- 入力フォームにおいて、項目についた注釈ボタンを押すとページ遷移してしまい、フォームの入力内容が意図せず消去される
こうした問題は、ユーザーが期待する挙動と、実際のUIの挙動がズレていることに起因します。具体的には、ユーザーは「こう動くだろう」と思って行動しているにもかかわらず、期待通りに反応しないことによるズレが生じています。あるいは、サイン不足によって「ここは操作できる」という期待そのものが生まれないケースもあります。これらが誤作動や離脱の原因となってしまうのです。
UIの課題をアフォーダンスとシグニファイアで読み解く
WebサイトやアプリのUIが「わかりにくい」と感じるのは、一般的に以下のような状態によるものです。
- 操作できるかどうかが見た目で判断しにくい
- 情報の構造や優先順位が整理されておらず、どの順番で読めば良いのかわからない
- 次に何をすれば良いのかが明確に示されていない
これらの課題は、ユーザーがスムーズに操作や判断を行うための「手がかり」が不足していることに起因しています。このとき有効なのが、「アフォーダンス」と「シグニファイア」という2つの視点です。これらの視点を用いてUIの課題を紐解くと、次のように整理できます。
-
操作できるかどうかが見た目で判断しにくい
制作者側がユーザーにどのような行動を起こしてもらいたいのかという意図が不明確でアフォーダンスが曖昧だと、ユーザーが「何ができるのか」を直感的に認識しづらいUIになります。
また、シグニファイアも不足していると「押せる」「触れる」といった操作可能性がUIから読み取れず、その上で、ユーザーが行動に移すことが難しくなります。 -
情報の構造や優先順位が整理されておらず、どの順番で読めば良いのかわからない
情報の構造や優先順位が視覚的に明確でないと、ユーザーは「どこから読めば良いのか」「どの情報が重要なのか」といった判断ができません。これは「どう読むか」のアフォーダンスが適切に認識できないことが原因であり、文字サイズや情報の配置や強弱、色づかいなどシグニファイアを考慮した視線誘導が十分でない場合によく起こる問題です。 -
次のアクションが明確に示されていない
ユーザーが画面上で次に取るべき行動を認識できないUIは、迷いや不安を生み、操作の中断や離脱につながります。これは、ユーザーの視点で「次に何をすれば良いか」が示されておらず、行動の手がかりとなるシグニファイアが欠けていることが主な原因です。
設計者が意図した操作フローと、ユーザーが想定するメンタルモデルにズレがある場合、ユーザーは次のステップに進めなくなります。こうしたズレを防ぐためには、文脈に応じた視覚的・言語的なガイドを適切に配置し、次の行動が自然に導かれるよう設計することが求められます。
また、次に取るべき操作を示すシグニファイアが不足している場合、ユーザーは次の行動を判断できず、スムーズな操作が妨げられてしまいます。
このように、UIの「わかりにくさ」は、アフォーダンスの解釈に関わるメンタルモデルを想定できていなかったり、シグニファイアが効果的に設計されていなかったりすることに起因している場合が多くあります。これらの概念を念頭に置き設計を見直すことで、ユーザーが迷わず自然に操作できるUIを実現することができます。
例えば、以下のような具体的なアプローチが効果的です。
<例>
- ボタンやリンクには「押せそう」と感じられる色、形、影を用いて、視覚的に操作可能性を伝える
- 情報は目的や優先度に応じてグルーピングし、視線の流れに沿った配置にする
- 次に何をすれば良いかがすぐにわかるよう、ちょっとした行動を促すマイクロコピーやマウスオンで表示される補足、進行状況がわかる進捗バーなどのガイドを設置する
これらの工夫により、ユーザーの「これは押して良いの?」「次は何をすれば良いの?」という迷いを解消し、ユーザー体験全体の質を向上させることができます。
BtoBサービスの資料請求フォームにおける改善事例
UI改善を行う際には、「情報の構造を整理すること」と「視認性を高めること」が重要なポイントとなります。ここでは、BtoBサービスの資料請求フォームの改善事例を、アフォーダンスとシグニファイアの視点からご紹介します。
改善のポイント

①改善前は入力欄の項目名と入力欄の位置が横並びのレイアウトで、視線の流れを誘導するシグニファイア(整列や余白など)や入力ガイダンスが不十分なため、情報構造が伝わりづらくなっていました。
そこで、情報整理のために「お客様の情報」「お問合せ内容」という大見出しを追加しました。また、入力項目名を入力欄の上に設置し、入力欄の幅を内容に合わせたサイズに調整することで、情報の種別や構造が把握しやすくなりました。

②改善前は例や必須・任意の区別がなく、入力欄に「何をどう入力すればよい良いか」「この項目は必ず入力しなければならないのか」を直感的に理解することが、難しい状況でした。
そこで、入力欄に例文表示や必須・任意の区別、選択肢の直接表示などのシグニファイアを工夫することで、「どのように入力すれば良いか」が直感的に理解できるようになりました。

③改善前は送信ボタンがクリックできる仕様になってはいるものの、それを示すシグニファイアが弱くて背景と同化してしまい、「ここを押せる」ということが視覚的に伝わりませんでした。
そこで、送信ボタンに立体感とコントラストを加え、押せそうな見た目にすることで、ユーザーが「これはボタンだ」「ここを押せば良い」と自然に判断できるようになり、行動に迷わなくなりました。
5. UI改善に役立つ検証・評価
ユーザーがスムーズに操作を行うためには、行動の可能性を直感的に感じ取れる「アフォーダンス」と、それを視覚や構造によって明確に伝える「シグニファイア」の両方が重要です。
こうしたUI設計上の意図がユーザーに正しく伝わり、期待通りに認識・操作されているかを確かめるには、UIの検証や評価が大切です。本章では、代表的なUI評価手法である「ユーザビリティテスト」について解説します。
ユーザビリティテストによるUIの検証・評価
ユーザビリティテストは、実際のユーザーに製品を操作してもらい、その行動や反応を観察・記録するUI評価手法です。ユーザビリティテストは、設計したアフォーダンスとシグニファイアがユーザーにどのように受け取られているかを検証する上で非常に有効です。
ユーザビリティテストではまず、ユーザーの操作中の行動を観察し、続いて事後インタビューを行うのが一般的です。例えば、あるボタンを見過ごしていた場合に「そもそも気づかなかったのか」「気づいていたが押せるとは思わなかったのか」など、観察結果に基づいて理由を深掘りすることで、ユーザーの認識プロセスやメンタルモデルをより正確に把握できます。
こうした一連のプロセスを通じて、
- 見過ごされた操作=シグニファイアが不十分
- 操作を誤った=シグニファイアが誤ったアフォーダンスを伝えてしまった
といった分析が可能です。
ユーザビリティテストでは、実際のユーザーによる操作を通じて検証することで客観的な分析ができ、根拠に基づいた改善が行えるため、UI/UXの質を着実に高めることができます。
ユーザビリティテストについて詳しく知りたい方は、下記のページもご覧ください。
6. まとめ
アフォーダンスとシグニファイアは、ユーザーが直感的に操作できるUIを設計する上で押さえておくべき基本概念です。UIの「わかりにくさ」やユーザーの離脱、誤操作といった課題は、多くの場合これら2つの概念を考慮できていないことが原因です。
本記事で紹介した改善アプローチや評価手法(ユーザビリティテスト)などを活用することで、ユーザー視点に立ったUI設計が可能になります。その結果、ユーザー体験の向上だけでなく、問い合わせ数や資料請求数の増加などビジネス成果にもつながると期待できます。
ユーザーが迷わず行動できるUIは、企業と顧客を結ぶ最初の接点です。アフォーダンスとシグニファイアを意識した設計で、UIの改善に取り組んでみてください。
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