UI/UXリサーチ / 戦略設計
今こそ原点回帰!デジタルマーケティングにおけるユーザー調査の重要性を再認識し、AIとの使い分けを考える

デジタルマーケティング分野では、AI(人工知能)を導入したデータ分析ツールの活用により、調査・分析・戦略立案の効率化が進んでいます。しかし、テクノロジーの進化と共に今もなお最も重要なのは顧客の「心」に迫ることです。
マーケティング活動においてもAI活用が当たり前になった昨今、事業戦略やマーケティングに携わる皆さんは、顧客とどれくらい向き合っていますか? データやツールだけでは見えてこない、ユーザーのリアルな声にどれほど触れているでしょうか。
本記事では、ユーザー調査が今なお重要な理由と、AIデータ分析とどう使い分けていくべきかについて考えます。
目次
1. ユーザー調査とAIの進化の歴史
ユーザー調査は、マーケティング活動における「方針を決めるための柱」として常に存在してきました。古くから、ユーザーインタビュー調査やアンケート調査などのユーザー調査を通じて実際の消費者のニーズや反応を掴むことが、マーケティング戦略の成功に直結していると認識されています。
ビジネスの世界のデジタル化が進むと、調査の方法も進化・多様化しました。アクセスログや検索ログの解析、ネット上の情報を活用するデスクリサーチ、SNSなどを通じて顧客の意見を収集するVOC(Voice Of Customer)分析など、よりリアルタイムにアクセスできるデータの分析が中心になっていきます。
そして、AIが急速な進化を遂げた現在、その重要性が一層高まっています。数年前まで、AIは高精度な計算や予測分析を行うツールとしての側面が強く、多くのマーケターにとってもそのように認識されていました。しかし現在では、AIを活用することで膨大な行動データを瞬時に解析し、そこからパターンを見出すことができるまでに成長してきました。
このような技術の進化とともに、広告ターゲティングや顧客行動の予測、売上分析、パーソナライズされた戦略の立案の領域でも、マーケティング活動においてもAIは大きく貢献しています。AIの技術革新によって、マーケターはより的確で迅速な意思決定を下せるようになりました。
2. データ分析に頼るだけでは見えてこない「顧客の心」
AIを活用したデータ分析は、消費者の行動パターンや意図を予測し、効果的なマーケティング戦略を立てる上で、今や必要不可欠なものとなっています。しかし、それはあくまでも過去のデータに基づく予測(仮説)であり、ユーザーの真意とマッチするとは限りません。
実際のユーザーと向き合う重要性
マーケティング担当者は、膨大なデータをもとに仮説を立て、戦略を練ることが多くありますが、実際にユーザーと向き合った経験が少ない場合、その仮説が本当に「顧客の真意」を反映しているかどうかは分からないままです。
「顧客はなぜその商品を選んだのか」「どのような気持ちで購入したのか」、データ分析だけではわからない顧客の真意を理解することが成功の鍵を握ります。
3. 顧客の個(n=1)に迫ることの重要性
AIは膨大なデータを分析することが得意ですが、「N=1マーケティング」という言葉にもある通り、マーケティングの原点に立ち返ったときに最も大切なのは「顧客一人ひとりの本音」を理解することです。
「経営の父」と呼ばれるピーター・ドラッカー(Peter Drucker)の以下の格言は、この本質を再認識するための示唆を与えてくれます。これらの言葉は、テクノロジーが進化する中でも、常に「顧客一人ひとりに対する理解と共感」が最も重要であることを示しています。
「企業の目的は、顧客を創造することである」
実際の英文: "The purpose of a business is to create a customer."
出典:『イノベーションと起業家精神』
ドラッカーは、企業の目的を「顧客創造」に置いています。注目したいのは、顧客を「customers(集団としての顧客層)」ではなく「a customer(個としての顧客)」と表現している点です。
ここに、「事業戦略はターゲット全体に対して行うものではなく、個々の顧客のニーズや価値観に基づいて行うべきだ」というメッセージを読み取ることができます。
企業が成功するためには、顧客一人ひとりのニーズや価値観を理解し、それに基づいた製品やサービスを提供することが大切です。顧客がどのように商品を体験し、価値を見出しているかを理解することが、真の「顧客創造」に繋がります。
「顧客を想像してはならない、顧客に直接聴かなければならない」
出典:『創造する経営者』
顧客のニーズを推測するのではなく、実際に顧客の声を聴き、彼らの要求に基づいて戦略を立てるべきだというこの言葉には、顧客ニーズをマーケティングの出発点と捉えるドラッカーの経営哲学が反映されています。
「企業が作った製品やサービスを顧客に売る」という順ではなく、「顧客の抱える課題や欲求に応えるために製品やサービスを創る」という順で事業に取り組むのが「顧客創造」であり、利益はその副産物だとドラッカーは伝えています。
そして、顧客のニーズに応えるためには、「顧客は誰か」「その人は何を価値とみなしているか」を深く理解する必要があります。
デジタル化が進み顧客とのリアルな接点が減少する現代において、顧客の行動や感情を理解するには、改めて顧客一人ひとりの「声」にしっかりと耳を傾け、その意図を理解・共感することがますます重要となっています。
4. 顧客の個(n=1)を理解するための方法
顧客一人ひとりの本音を理解することは、パーソナライズされたマーケティング戦略に欠かせません。AIデータ分析では捉えきれない顧客の感情に迫るには、以下の手法が有効です。
1. ユーザーインタビュー調査
ユーザーインタビュー調査は、顧客に直接質問して顧客の体験や感情を明らかにする手法です。顧客が製品やサービスに対してどのように感じ、どんな問題を抱えているのかを深掘りします。これにより、顧客の隠れたニーズを可視化し、改善点を発見することができます。
2. ユーザビリティテスト
ユーザビリティテストは、顧客が製品やサービスをどのように使用するかを観察し、行動理由を質問するなどして理解を深め、顧客視点で問題を発見する調査手法です。特にWebサイトやアプリのインターフェースにおいて、どの部分でつまずいているかを把握するのに有効です。これにより、改善すべきポイントを的確に洗い出します。
3. エスノグラフィー調査(現地行動観察調査)
エスノグラフィー調査は、製品・サービスの利用現場にて顧客の行動や環境を観察する方法です。実際の利用状況を把握・理解するだけでなく、顧客自身も気づいていない潜在的なニーズを発見しやすい調査手法です。
顧客理解を深めることでパーソナライズされた戦略が生まれる
これらの調査手法を通じて得られる情報は、AIデータ分析だけでは得られない貴重な洞察です。顧客一人ひとりの本音や感情に迫ることで、よりパーソナライズされたマーケティング戦略が実現します。
データ分析で得られる「数字」に基づいた仮説に対し、ユーザー調査によって実際の顧客体験を確認し、戦略を調整することで、より効果的な戦略を構築できます。
ご紹介したユーザー調査についてさらに詳しく知りたい方は、以下の記事もご覧ください。
【関連記事】顧客の個(n=1)を理解するためのユーザー調査手法
5. AIを使ったカスタマージャーニーマップ作成の有用性
前章では顧客理解のための人的な調査をご紹介しましたが、最近では生成AIにペルソナを共有し、AIを顧客に見立ててインタビューすることでカスタマージャーニーマップを作成する手法がUXリサーチに取り入れられています。この手法は、特にコストや時間が限られている場合に有効です。
しかし、ここで得られるものはあくまでも「仮説」です。実際に顧客がどのような思いで行動しているのか、その深層に迫るためには、前述したようなリアルなユーザー調査でその仮説を検証することが重要です。
AIによる事前仮説立案が有効な例
特定のターゲット層を調査する際、調査対象者のリクルーティングの難易度が高くなることがあります。例えば、海外ユーザーや特定の業界に特化したプロフェッショナルなど、リーチが難しい層に対しては調査が一層困難になると考えられます。こうした場合に、AIを活用して仮説を効率的に立て、その後、ユーザー調査で仮説を検証するアプローチが特に有効です。
例1:海外ユーザーのリクルーティング
海外ユーザーをターゲットにした調査は、国内ユーザーに比べてリクルーティングの難易度が高く、コストがかかります。特に、海外の調査モニターは国内のものより利用料が高く、さらに通訳や翻訳が必要になるため、調査コストが増加します。
このような場合、生成AIを活用してローコストで仮説を立てた後、現地ユーザーに対するインタビューでその仮説を検証する方法が効果的です。現地の言語や文化に精通したバイリンガルのUXリサーチャーを活用することで、調査の効率が大幅に向上し、コストを抑えながら言語や文化的な障壁を越えて調査を行うことが可能です。
なお、DESIGN αでは、英語・日本語のバイリンガルUXリサーチャーによるインタビューの実施も可能ですので、どうぞお気軽にご相談ください。
例2:BtoB市場のインタビュー調査
BtoB市場では、顧客が一般消費者ではなく企業の担当者になるため、リクルーティングの難易度が高くなることがあります。特に決裁者や経営者層をターゲットにする場合、そもそもの母数が限られる上、調査協力を得るためにはある程度の意義や納得感をもってもらうことが必要です。
このような場合も、AIを活用して事前に仮説を立て、重点的に掘り下げるべきポイントを絞った上で、実際の顧客(あるいは、顧客に近い条件の調査モニター)へのインタビュー調査を実施します。
なお、実際の顧客に調査協力を得るためには、顧客満足度調査や実績掲載のためのインタビュー調査という体裁を取るのも効果的です。こうした形で協力を得ることで、BtoBであってもインタビュー調査の協力を得やすくし、実際のユーザー体験を収集することができます。
6. AIとユーザー調査をどう実践に活かすか
現在、UXリサーチとAI技術の融合が進んでいます。
例えば、AIを活用したユーザー行動の予測や、ユーザーの感情をリアルタイムで分析するツールが登場しています。これらのツールを活用することで、より効率的にユーザーのニーズを把握し、UXデザインを改善することができます。
今後、AIはUXリサーチにおける重要なパートナーとなり、調査方法をさらに進化させるでしょう。
では、具体的にどのように実践に活かすことができるのでしょうか?
ここでは、既存の製品・サービスやWebサイトの改善に向けたユーザー調査に、AIをうまく取り入れるステップをご紹介します。
Step1:生成AIで仮説を立て、ユーザー調査で検証
まず、生成AIを活用して顧客の行動に関する仮説を構築します。過去のデータやトレンドを基に、顧客が取るであろう行動を予測します。その後、ユーザーインタビューやアンケートなどで、AIが導き出した仮説が実際の顧客体験に合致しているかを確認しつつ、行動の背景にある意図や感情を掘り下げます。
Step2:調査結果を反映して戦略を調整
ユーザー調査を通じて得た実際の顧客の意見を基に、マーケティング戦略やUXデザインを見直します。AIによるデータ分析だけでは見えてこない「顧客の真のニーズ」に迫ることで、より戦略の精度を高めることができます。
Step3:継続的な調査・分析で戦略を最適化
UX改善で大切なのは、継続的に戦略を見直し、状況に応じて最適化することです。
定期的にユーザー調査を実施し、そのデータを用いて生成AIと壁打ちしながら分析を繰り返すことで、マーケティング戦略やUXデザインは常に進化します。これにより、市場の変化や顧客の新たなニーズに素早く対応できるようになります。
7. 【まとめ】データと顧客の声を融合させる新しいUXリサーチのカタチ
AIデータ分析は、事業戦略やマーケティングにおいて強力な手法ですが、最終的な成功を左右するのは、データだけでは見えない「顧客の真のニーズ」をどれだけ深く理解できるかにかかっています。
データ分析によって顧客行動を予測し、戦略を立てることは重要ですが、その仮説を実際のユーザーの体験を通じて検証する必要があります。
ロジカルシンキングで単に製品のスペックやサービスの質を上げただけで売れる時代ではなくなりました。今こそ、実際のユーザーと向き合い、顧客の本音を聞き出すことが求められています。
最終的に、顧客一人ひとりの体験に寄り添い、そのニーズを深く理解することこそが、企業の成長を促進し、競争優位性を生み出す鍵となります。
AIデータ分析とユーザー調査をうまく組み合わせ、顧客理解をさらに深めることが、変化の速い市場の中で競争力を維持するための戦略となるでしょう。
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