UI/UXリサーチ / 戦略設計
【無料テンプレート付】新規事業の解像度が上がる「リーンキャンバス」とは?書き方と活用を徹底解説!

新規事業のアイデアはあるものの、ビジネスとして本当に成立するのか不安がある。あるいは、チーム内でサービスのイメージが共有できておらず、議論が噛み合わない。
プロジェクトの初期段階では、こうした「認識のずれ」や「解像度の低さ」が大きなハードルになります。時間をかけて立派な事業計画書を作る前に、まずはビジネスの全体像を俯瞰できる設計図が必要です。
そこで役立つのが「リーンキャンバス」です。A4用紙1枚でビジネスモデルの重要要素を整理できるこのフレームワークは、 不確実性の高い新規事業において、リスクを最小限に抑えつつ検証を進めるための確かな指針となります。
本記事では、リーンキャンバスの基礎知識から、失敗しない書き順、そして具体的なサービスを想定した記入例までを解説します。
リーンキャンバスとは?なぜ「1枚」で書くのか
リーンキャンバスとは、『Running Lean(ラニング・リーン)』の著者である、起業家アッシュ・マウリャ氏が提唱したフレームワークです。A4用紙1枚に収まる9つのブロックで構成されており、短時間でビジネスモデルの全体像を描き出せるのが最大の特徴です。
ビジネスモデルキャンバス(BMC)との違い
よく似たフレームワークに「ビジネスモデルキャンバス(BMC)」がありますが、両者は利用シーンが異なります。
ビジネスモデルキャンバスは、パートナーシップやリソース配分などを含む事業モデル全体を広く捉えるのに適しており、すでに成立している事業の構造を整理するのに向いています。対してリーンキャンバスは、不確実性の高い「スタートアップ(新規事業)」のために作られました。
新規事業における最大のリスクは、技術的な失敗ではなく「誰も欲しがらないものを作ってしまうこと」です。そのため、リーンキャンバスでは「顧客の課題」や「独自の価値」といった、顧客視点での検証項目にフォーカスします。
デザイン思考における位置づけ
UXデザインの現場で重視される「デザイン思考」や「人間中心設計(HCD)」のプロセスにおいても、リーンキャンバスは重要な役割を果たします。
デザイン思考や人間中心設計(HCD)は、ユーザーを起点に課題を捉え、試作と検証を繰り返して解決策を磨く考え方です。
中でもデザイン思考は、未知の課題を発見して新しい価値やイノベーションを創出することに主眼が置かれます。一方、人間中心設計は、製品やサービスがユーザーにとって使いやすいかというユーザビリティや利用品質を担保するための概念といえます。
リーンキャンバスは、そういったUXデザインの過程で導き出したインサイト(気付き)を、単なるアイデアで終わらせず、「持続可能なビジネスモデル」へと昇華させるための橋渡し役となるのです。ユーザーにとっての価値と、ビジネスとしての収益性のバランスを検証する地図と言えるでしょう。
【関連記事】人間中心設計(HCD)はサービスのUX改善にどう貢献するか?ビジネスリーダーに求められる視点
HCDの基礎から国際規格における定義、具体的なプロセスまでを網羅的に解説しています。
いつ作成し、どう活用するのか?
リーンキャンバスは、作成するタイミングや運用方法を間違えると、単なる「穴埋め作業」になってしまい効果を発揮しません。現場で実際に役立てるためのポイントを解説します。
作成のベストタイミングは「本格的な調査の前」
リーンキャンバスを作成するのに最も適しているのは、ユーザーの課題を認識してそれを解決するためのアイデアが浮かび、事業化の可能性を感じ始めた初期段階です。
具体的には、「まだ開発や詳細な仕様策定に大きな工数をかけておらず、これから実現性の調査(市場調査やユーザーインタビュー調査)に入ろうとしているタイミング」がベストです。
なぜなら、リーンキャンバスは「調査結果をまとめるレポート」ではなく、「何を調査すべきかを決めるための地図」だからです。
- 早すぎる場合: 「AIを使った事業を始めたい」といった願望レベルの段階。顧客や課題が明確になっていません。
- 遅すぎる場合: ユーザーニーズをしっかりリサーチし、仕様書を作成した段階。この段階でリーンキャンバスを作って「期待される成果とコストが見合わない」などの問題が見えても、手戻りが大きすぎます。
本格的な調査にコストや時間を投じる前に、「現時点での仮説」として、どの程度成功の見込みがあるかをざっくりと整理・共有するために活用してください。
作って終わりではない。「書き直し」を前提にした運用法
リーンキャンバスにおいて最も重要なのは、一度完成させた後です。書き上げた瞬間のキャンバスは、あくまで仮説の集合体に過ぎません。
作成したキャンバスを持って、ターゲットとなるユーザーへのヒアリングや競合調査(検証)に行き、その結果を持ち帰ってキャンバスを「書き直す」ことこそが正しい運用です。
- 運用サイクル: 仮説構築(ver.1作成) → 検証(インタビュー等) → 学習(気づきの整理) → キャンバスの修正(ver.2作成)
「インタビューの結果、課題はAではなくBだと分かった」となれば、該当箇所を書き換えます。このように、事業の解像度が上がるにつれてキャンバスの内容がアップデートされていく状態が理想的です。
事業を正当化するための道具にしない
運用の際は「事業を正当化するための道具にしない」という点に注意してください。
リーンキャンバスは、社内で事業アイデアを通すための資料としても有効ですが、同時にそのアイデアが独りよがりでないかを確認する診断ツールでもあります。
リーンキャンバスを作成した結果、「この事業は成立しない(撤退すべき)」と判明することも、無駄な開発費を使わずに済んだという意味で「成功」の一つと言えます。
失敗しない「書き順」と9つの要素
リーンキャンバスには9つの要素がありますが、実は「どこから書いても良い」わけではありません。思考の順序を間違えると、独りよがりなプロダクトアウトの事業計画になってしまうリスクがあります。
「解決策」から埋めてはいけない理由
多くの人は、作りたい機能(ソリューション)や、サブスクリプションなどのビジネスモデル(収益の流れ)から埋めたくなりがちですが、これは推奨されません。
解決策から書き始めると、顧客や課題が後付けになり、「誰がなぜ困っているか」という視点が欠けたまま進んでしまうからです。この順序の違いは、その後のインタビューや検証の質に決定的な差を生みます。
【悪い例】解決策や収益から考える
解決策や価格設定を前提にしてしまうと、ユーザーへの検証が「このサービスをどう思いますか?」「月額5,000円なら使いたいと思いますか?」といった、解決策の受け入れを前提とした、誘導につながる問いになりがちです。
これでは、そもそも課題が存在するかどうかを確認する前に、「商品を買ってくれるか」という会話をしてしまい、本当の意味での価値検証ができません。
【良い例】顧客・課題から考える
「誰が」「何に困っているか」を起点にすると、検証の目的が「この人は本当にこの課題を感じているか?」「既存の代替手段に不満はあるか?」という、課題仮説の確認になります。
まず課題の存在を確かめ、その後に初めて解決策を提示する。この順序を守ることで、誰も欲しがらないものを作ってしまうリスクを回避できます。
推奨ステップの全体像
以下の順番で思考を整理していくことで、論理的に矛盾のないキャンバスを描くことができます。
- 顧客セグメント: 誰にサービスを提供するのか
- 顧客の課題: その顧客は何に困っているのか
- 独自の価値提案(UVP): なぜあなたのサービスが選ばれるのか
- 解決策: どうやって課題を解決するのか
- チャネル: どうやって顧客に届けるか
- 収益の流れ: どうやって利益を得るか
- コスト構造: 何に費用がかかるか
- 主要指標(KPI): 成功をどう計測するか
- 圧倒的な優位性: 他社が真似できない強みは何か
まずは1〜3の「顧客・課題・価値」のセットを固めることが、リーンキャンバス作成の第一歩です。
下記より、DESIGN αオリジナルのリーンキャンバステンプレートをダウンロードできます。
2シート目には「記入サンプル」も入っているので、書き方に詰まったときのヒントとして活用してください。
【実践】ハイランク電動自転車サブスク「E-Cycle Life」で見る記入例
ここからは、実際にテンプレートを埋めるプロセスを見ていきましょう。
イメージしやすいように、今回は架空のハイランク電動自転車サブスクリプションサービス「E-Cycle Life(仮)」を立ち上げるケースを例にとり、リーンキャンバスの作成フローを解説します。
1. 顧客セグメント(Customer Segments)
まずは「誰のためのサービスか」を定義します。
単に「20代〜30代」といった属性(デモグラフィック)だけでなく、どのような状況に置かれているかという行動・心理(サイコグラフィック)まで踏み込んで設定します。
- ターゲット層: 自宅から職場まで5km前後のところに住んでいる会社員。徒歩には遠い(1時間)が、電車移動には効率が良くない距離感に悩む。
- アーリーアダプター(初期に採用してくれる層): 毎朝の満員電車に限界を感じており、「自転車通勤」への切り替えを本気で検討している。
ターゲット像が曖昧だと、後の「課題」もぼやけてしまいます。より具体的にイメージするには、ペルソナの設定も合わせて行うと効果的です。
2. 顧客の課題(Problem)
ターゲット顧客が抱えている切実な悩みや不満を挙げます。ここでは机上の空論ではなく、インタビューや観察に基づいたリアリティのある課題を抽出することが重要です。
・トップ3の課題:
- 高性能な電動自転車に興味はあるが初期費用が高く(15万円前後)、気軽に買うにはハードルが高い。
- パンク修理やバッテリー交換などのメンテナンスのコストが心配。
- 高価なものなので、駐輪時に盗難されるリスクがある。
・既存の代替品: 一般的な自転車(坂があるので疲れる)、満員電車(ストレスが大きい)、シェアサイクル(毎日使うと割高で、乗りたい時に空きがないこともある)。
「既存の代替品」を明記するのは、競合が必ずしも同業者とは限らないからです。この例では「満員電車」も競合となります。
なお、顧客の心の声や状況を深く理解するためには、ペルソナ以外に「共感マップ」というフレームワークも有効です。
下記の記事では詳しく説明しているので、ぜひチェックしてみてください。
3. 独自の価値提案(Unique Value Proposition)
課題に対して提供できる、あなただけの価値を一言で表現します。機能(Feature)ではなく、顧客が得られる恩恵(Benefit)を書くのがポイントです。
- UVP: 初期費用0円。メンテナンス費込みの月額定額で、最新の電動自転車を「マイ自転車」として占有できる
- ハイレベルコンセプト: 「スマホを契約するように、電動自転車に乗る」
4. 解決策(Solution)
課題を解決するための具体的な機能やサービス内容です。
- 高性能電動自転車の長期レンタル提供
- 盗難・故障時の無料交換保証(保険付帯)
- LINEで呼べる出張修理サービス
5. チャネル(Channels)
見込み顧客にどのようにアプローチし、サービスを届けるかの経路です。
- Web広告:「満員電車 辛い」などのキーワードで検索する層へ
- 沿線の不動産屋との提携:引っ越しのタイミングでの案内
- 電車内広告:日々の通勤時に別の選択肢を提示
ユーザーがいつ課題を感じ、どのタイミングで解決策を探すのかを知るには、カスタマージャーニーマップを活用して接点を洗い出すのが有効です。
【関連記事】【無料テンプレート付】カスタマージャーニーマップで現状分析!課題出しからあるべき姿の導き出し方まで解説
顧客の行動や感情を可視化し、現状の課題からあるべき姿を導き出すための手順を解説しています。
6. 収益の流れ(Revenue Streams)
ビジネスとしてどのように利益を生み出すかを具体化します。単価×数量だけでなく、「売り切りか、継続課金(サブスク)か」というモデルそのものを定義します。
- 基本プラン:月額利用料(4,980円/月)
- オプション収益:子供乗せシートやヘルメットの追加レンタル(+500円/月)など
サブスクリプションモデルの場合、初期の売上は低くても、継続期間が長くなるほど利益が積み上がる構造になります。
コストとのバランスを考慮しながら、点ではなく線での収益構造に目を向けるようにしましょう。
7. コスト構造(Cost Structure)
事業を行うために発生する費用を洗い出します。顧客獲得コスト(CPA)や原価だけでなく、サーバー代や家賃などの固定費も含めます。
- 初期投資:車両の仕入れ費用(資産として計上)
- 変動費:メンテナンススタッフの人件費、配送コスト、保険料
- 固定費:在庫を保管する倉庫の賃料
ここを正確に把握することで、「最低何人のユーザーがいれば赤字にならないか(損益分岐点)」が見えてきます。
事業の利益に直結するポイントなので、モレなく出し切るようにしましょう。
8. 主要指標(Key Metrics)
ビジネスがうまくいっているかどうかを測るための「測定器」です。単なる売上ではなく、事業の成長段階に合わせたリアルな指標を設定します。
- 稼働率:保有している在庫のうち、何割がレンタル中か(在庫リスクの管理)
- LTV(顧客生涯価値):1人のユーザーが平均何ヶ月継続し、トータルいくら支払うか
- 初期解約率:サービス品質に不満を持ってすぐに辞めてしまう人が増えていないか
9. 圧倒的な優位性(Unfair Advantage)
競合他社が簡単には真似できない、あるいは購入できない「強み」です。「情熱」や「先行者利益」ではなく、構造的なバリアを指します。
- 特定メーカーとの独占供給契約による、他社より圧倒的に安価な仕入れルート
この項目はリーンキャンバスの中で最も埋めるのが難しい部分です。初期段階では空欄や仮説でも構いませんが、最終的にここが確立できなければ、大手企業が参入してきた際に価格競争で負けてしまうリスクがあります。
【Q&A】現場で迷わないためのリーンキャンバス作成ガイド
最後に、実際にリーンキャンバスを作成する際によくある疑問にお答えします。
Q1. 内容が抽象的で浅くなってしまいます。どうすれば良いですか?
A. 初期フェーズでは、どうしても具体的に書ききれない部分が出てくるのはやむを得ません。
立ち上げ当初は不確定要素が多く、すべての項目を完璧に埋めようとすると手が止まってしまうからです。解決策や数値計画などは、現時点での「仮の想像」で埋めておいても構いません。
ただし、ビジネスの起点となる「誰の(顧客)」「どんな悩み(課題)」だけは、優先的に解像度を上げるよう意識してください。
ここがボヤけていると、その後の検証作業がすべてブレてしまうからです。まずは全体を仮説で埋めつつ、この2点から深掘りを進めていきましょう。
Q2. 分からない項目があり、空欄ができても大丈夫ですか?
A. 大丈夫です。空欄は「これから検証すべき未知のリスク」と捉えてください。
無理に埋める必要はありません。分からない部分は「?」と書いておき、そこを明らかにするためのインタビューや調査を計画すれば良いのです。
最も危険なのは、分かっていないのに想像だけで埋めて「分かった気」になってしまうことです。
Q3. ターゲットが「ユーザー」と「決裁者」など複数いる場合は?
A. 1つのキャンバスに混ぜず、ターゲットごとに枚数を分けてください。
例えばBtoBサービスで「現場担当者(業務効率化したい)」と「経営層(コスト削減したい)」では、抱える課題も響く価値提案も全く異なります。
無理に1枚にまとめると論理が破綻しやすいため、それぞれの視点でキャンバスを作成することをおすすめします。
Q4. 「既存の代替品(競合)」が思いつかない場合は?
A. 「何もしない(現状維持)」や「アナログな解決策」も代替品(代替案)です。
全く同じサービスが存在しなくても、顧客は何らかの方法でその課題をやり過ごしているはずです。
Excelでの手動管理、我慢する、あるいは「そもそも解決を諦めている」状態などが代替品になります。
この観点を見落とすと、「今のままで十分だから」と、使ってもらえない原因になります。
Q5. 最終的にどのくらいの精度まで高めれば完成ですか?
A. 事業がPMF(プロダクト・マーケット・フィット)するまで更新し続けます。
リーンキャンバスに「完成」はありません。事業が動き出し、顧客がお金を払い続けてくれる状態(PMF)になるまでは、毎週のように書き換わるはずです。
逆に、事業が安定期に入り、新たな仮説検証の必要がなくなったら、リーンキャンバスの役割は終了し、より詳細なKPI管理や運用フロー図へとバトンタッチします。
まとめ:書いてからが本当のスタート
リーンキャンバスは、きれいに埋めることが目的ではありません。書き上げた瞬間は、まだ仮説にとどまっているポイントが多数あるからです。
特に、顧客にとっての価値(Benefit)だと思っている部分が、単なる提供側の思い込みでしかなかった場合、事業は失敗に終わってしまいます。
作成したキャンバスをもとに、まずは「設定した課題」が本当に存在するのかをインタビューで確かめ、次に「考えたソリューション」が受け入れられるかを検証する。
その結果、反応が悪ければピボット(事業内容の方向転換・軌道修正)する。
調査・検証とキャンバスの書き直しを繰り返すこのサイクルを高速で回し、事業の精度を高めていくことこそが、リーンキャンバスの真のあり方です。
まずはチーム全員の頭の中にあるアイデアを、この1枚の紙に落とし込むことから始めてみてください。認識のずれが解消され、今やるべきアクションが明確になるはずです。
UX調査をご検討中の方へ
「ユーザーの声や潜在ニーズが知りたい」「自社には調査部門がないから専門家に相談したい」「何社か調査会社を比較検討したい」というお客様のために、無料相談会やサービス案内資料をご用意しました。
調査に関する個別オンライン相談をご希望の方や、サービスラインナップや費用感が分かる資料のダウンロードをご希望の方は、こちらよりお気軽にお申し込みください。



