UI/UXリサーチ / 戦略設計
【書籍紹介】『Web制作者のためのUXデザインをはじめる本 ユーザビリティ評価からカスタマージャーニーマップまで』
UXの調査や改善に興味はあるけれど、いざ始めようとすると何をすれば良いのかわからないという方も多いのではないでしょうか?
今回は、Web制作に携わる方や、組織にUXデザインを導入したい方向けに『Web制作者のためのUXデザインをはじめる本 ユーザビリティ評価からカスタマージャーニーマップまで』という本をご紹介します。
1. 今回ご紹介する書籍の基本情報
今回紹介する書籍は以下の通りです。
書籍の基本情報
- 書籍名:Web制作者のためのUXデザインをはじめる本 ユーザビリティ評価からカスタマージャーニーマップまで
- 著者名: 玉飼 真一、村上 竜介、佐藤 哲、太田 文明、常盤 晋作、株式会社アイ・エム・ジェイ
- 発行年月日:2016/11/1
- 出版社:翔泳社
- URL:https://amzn.asia/d/344thJ3
書籍の追加情報
書籍の公式サイトや作者のXなどをまとめました。
- 株式会社IMJ公式サイト:https://www.imjp.co.jp
-
作者へのインタビュー記事:
https://markezine.jp/article/detail/25567 - 株式会社IMJ X:https://twitter.com/imj_official/
2. 書籍の要約
本書は、株式会社アイ・エム・ジェイ (大手デジタルマーケティング会社)にて、UXデザインに携わってきた著者たちによる、Web制作者に向けたUXデザインの解説書です。
- 「UXデザインとは?」
- 「ユーザビリティ評価からはじめる」
- 「プロトタイピングで設計を練りあげる」
- 「ペルソナから画面までをシナリオで繋ぐ」
- 「ユーザー調査を行う」
- 「カスタマージャーニーマップで顧客体験を可視化する」
- 「共感ペルソナによるユーザーモデリング」
-
「UXデザインを組織に導入する」
の8つの章に分けて、事例や図表、写真を用いながら具体的なUXデザインの手法について解説しています。
第1章「UXデザインとは?」
第1章では、UXデザインの基本について学びます。本書では、UXデザインを「デザイン=設計」として捉えています。デザインとは見た目を表す意味もありますが、本書のUXデザインのデザインとは、あくまで「設計」という意味に当たります。
UXの基本的な概念から、UIとUXとの関係性、また仕事に落とし込むにあたっての考え方などについて紹介しています。
第2章「ユーザビリティ評価からはじめる」
第2章では、ユーザビリティ評価とは何か、Webサイトにおけるユーザビリティ評価、実施手順について学びます。計画や準備段階の話から、検査当日の細かいタイムライン、分岐手法に至るまでを細かく知ることができます。
また、ユーザーの協力が不要な専門家評価(ヒューリスティック評価・認知的ウォークスルー)の手法についても触れ、ユーザービリティ評価との違いについても紹介しています。
第3章「プロトタイピングで設計を練りあげる」
第3章では、設計・制作フェーズでのプロトタイピングを扱っています。プロトタイピングとは、製品化するまでの試作品を作って評価すること。プロトタイピングの意義や種類、具体的な手法について学びます。また、ワイヤーフレームを評価する方法やペーパープロトタイピング、プロトタイピングを実施する際の注意点についても詳しく書かれています。
第4章「ペルソナから画面までをシナリオで繋ぐ」
第4章では、「構造化シナリオ法」という、製品やサービスがユーザーに選ばれ、価値を提供するまでの“あるべき姿”のシナリオを描く手法を学びます。ユーザーの人物像(ペルソナ)の作り方や価値・行動・操作のシナリオの書き方について紹介しています。
第5章「ユーザー調査を行う」
第5章では、「ユーザーの本音」についてデータをいかに集めるか、どのように有効活用できる形にするか学んでいきます。ユーザー調査では、データ収集の手法・コツや「弟子入りインタビュー」と呼ばれる深掘り質問をするためのノウハウ、そして親和図法などのデータ分析手法について紹介しています。
第6章「カスタマージャーニーマップで顧客体験を可視化する」
第6章では、ユーザーの認知から購入、リピート・共有までの顧客体験を可視化したカスタマージャーニーマップについて解説しています。カスタマージャーニーマップが必要な理由から作成のための調査方法、作り方と実際のワークの様子まで掲載されており、全体の流れを学べます。
第7章「共感ペルソナによるユーザーモデリング」
第7章では、「具体的なユーザー像」を描き出し、プロジェクトメンバーの目線や視座を揃えるための方法としての共感ペルソナ(共感マップとも呼ばれています)の作り方を紹介しています。
第8章「UXデザインを組織に導入する」
第8章では、UXデザインの導入活動について学んでいきます。
UXデザインは個人ではなくチームで取り組んでいく必要があり、プロジェクトメンバーの理解が不可欠です。有用性の検証・立証の仕方や関係者の巻き込み方など、組織的に取り組んでいくためのシナリオについて紹介しています。
3. 書籍のおすすめポイント
本書はUXデザインを組織で実践して行くのにとても役に立つ本です。本書をおすすめしたい理由を3つにまとめました。
実践的な内容になっている
本書をおすすめする理由の1つ目は、本を読めばそのまま実践につなげられる点です。
本書の著者たちは株式会社アイ・エム・ジェイにてUXデザインに携わっており、「ユーザビリティ評価」「プロトタイピング」「構造化シナリオ法」「ユーザー調査」「カスタマージャーニーマップ」「共感ペルソナ(共感マップとも呼ばれています)」などのUXデザインの手法について、現場視点で詳しく書かれています。
フローが丁寧に書かれていて具体例も豊富なので、本書1冊あれば初心者でもすぐにチャレンジできるようになっています。
UXデザインを現場に落とし込む方法がわかる
2つ目は、仕事として現場に落とし込むには?という観点にまで言及されている点です。
UXはどちらかというと中長期的な成果を見据えて実施する性質上、チーム全体で同じ意識をもって取り組む必要があり、ハードルが高い領域です。
そこで、無理なく始められるよう、「こっそり練習レベル」「一部業務でトライアルレベル」「クライアント巻き込みレベル」に分けて現場への落とし込み方のコツを解説しています。
こっそり練習レベル
「上長から仕事扱いされていない中、個人的にこっそり練習してみるレベル」
(p.08 「3つの取り組みレベルと仕事としての機会の作り方のノウハウ」から引用)
UXデザインをスモールに始める方法として、
- ユーザビリティ評価は最終的なアプトプットとして取り組む
- ワイヤーフレームを書いている人がペーパープロトタイピングに取り組む
- 構造化シナリオの練習は、Webサイトやアプリの画面設計をしたことがある人が必要な画面のシナリオを描く
- ユーザー調査を友人から始める
- カスタマージャーニーマップは、ユーザー調査のデータや分析結果を元に練習を始める
などのアイデアが取り上げられています。こっそり練習レベルであれば、どのフェーズでも手軽に取り入れやすいと言えるでしょう。
一部業務でトライアルレベル
「一部業務扱いとしてトライアル扱いでやってはいるものの、既存のやり方にあまり影響を与えない範囲に限っていて、新しく取り組むUXデザインでの責任が発生しない(またはかなり限定的)なレベル」(p.08 「3つの取り組みレベルと仕事としての機会の作り方のノウハウ」から引用)
実際に業務に取り入れていくための方法として、
- ユーザビリティ評価は、ディレクターやデザイナーが日常的に行なっている業務の代替手段として行う
- プロトタイピングは、クライアントに了承を得ず、勝手にやってしまう
- 構造化シナリオは、要件定義や設計のタイミングのものを行う
- ユーザー調査では、同僚や先輩にインタビューしてみる
- カスタマージャーニーマップでは、プロジェクトに関係する実データを十分に集めた上で実施
などがあります。
その中でも、例えばユーザビリティ評価は課題が目に見えて浮かび上がってくる分周囲の理解も得やすく、比較的実務に組み込みやすいのですが、構造化シナリオなど成果が目に見えづらい施策はハードルが高いので、段階を踏んで推進していくことが大切です。
クライアント巻き込みレベル
「UXデザインでの実施内容をプロジェクト全体に伝え、ワークショップに参加してもらうなどクライアントも巻き込んでいて、成果が問われ、UXデザインとしての責任が発生するレベル(有償/無償問わず)」(p.08 「3つの取り組みレベルと仕事としての機会の作り方のノウハウ」から引用)
プロジェクトレベルでUXデザインを実施できるようになると、本格的に業務に取り入れていると言えるようになるでしょう。
クライアントを巻き込んでいくための考え方やコツとして、下記のようなポイントがあります。
- ユーザービリティ評価は、実施するとユーザーからWebサイトに対して手厳しい反応があるので結果がわかりやすい。もし改善案を求められたら、クライアントを巻き込んでユーザビリティテストをする
- プロトタイピングは、クライアントには関心を持ってもらいづらく、コストがかかる場合などは承認も必要になる。そのため、クライアント側に設計面での関心を持ってもらうためのコミュニケーションを取ったり、一度作ると改修が大変なものであるような場合にその必要性をよく理解してもらう必要がある
- 構造化シナリオは、クライアントに一緒に議論に参加してもらい、それ自体を理解してもらうハードルは高い。ただし、画面設計などについて論拠を持って進めたいようなケースではクライアントの目線での意見も取り入れるために、共にシナリオを考えるのも有意義
- ユーザー調査は、結果だけではなく調査と分析の過程をオープンする必要がある
- カスタマージャーニーマップは、一旦ベースを作成した上で、クライアントの目線を入れてブラッシュアップするという形をとることで、クライアントの参加ハードルを下げることができる
といった点が挙げられます。クライアント巻き込みレベルは全体的に難易度が高く、特に構造化シナリオがその特性から巻き込みが難しいと言えます。
このように、UXデザインの手法を組織ぐるみで取り組んでいくようにするためのステップがわかりやすく書かれています。
テンプレートが豊富で具体例もある
本書がおすすめの理由の3つ目は、テンプレートが豊富で具体例があるという点です。
第4章の「価値のシナリオ」「行動のシナリオ「操作のシナリオ」、第6章の「カスタマージャーニーマップ」、第7章の「共感ペルソナ(共感マップ)」、第8章「ステークホルダーマップ」「導入シナリオ」のフレームはテンプレートが用意されており、それぞれオンラインからダウンロードできます。
具体例も豊富で、例えば、第7章の「共感ペルソナ」で本書のペルソナが、第8章の「導入シナリオ」では、国内医療関連サービス事業社やサイバーエージェント社、国内Web制作会社の導入シナリオが掲載されています。
テンプレートと具体例があることで、学んですぐに実戦で活用することができます。
4. こんな方におすすめ
Web制作に携わる方
本書の想定読者としての職業にWebデザイナーが挙げられ、さらにはWeb制作に関わる方全員におすすめの本だと言えます。職種としては企画・開発者、ディレクター、プロデューサー、デザイナー、エンジニアといった方々です。
本書は、UXデザインを説明する本というよりは、実務にUXデザインをどう取り入れていくかといった内容になっています。
そのため、デジタルプロダクトやサービスの企画や制作に関わる方々であれば、実践的に業務に活かせる内容なので、職種や立場に関わらずぜひ読んでみてほしい本です。
最近UXデザインに興味を持ち始めた方
「UXデザインに最近興味を持ち始めたけれど、UXデザインとはどんなものかわからない」、「『ユーザー中心』という考え方には共感できるけど、どうやってやれば良いかわからない」といった方にもおすすめの本です。
本書は、UXデザインについて細かく具体的に書かれた本であり、体系的に学べるようになっています。また、「ユーザビリティ評価」「プロトタイピング」「ペルソナ」「ユーザー調査」「カスタマージャーニーマップ」「共感ペルソナ(共感マップ)」といった施策が、取り組みやすい流れで書かれているので、具体的に何から始めれば良いかがわかりやすく、最近興味を持ち始めた人にもとっつきやすい内容になっています。
UXデザインを組織に導入したい方
本書はUXデザインについては学んでいるものの、組織として導入していくためにどうしたら良いか困っている方にもおすすめです。本書はUXデザインそのものだけでなく組織への導入の仕方まで書かれており、「手法」「文化」「組織」「プロセス」の4つの視点で取り組むことが大切だと述べられています。
手法
- UXデザインチームによる手法の提供・実施
- UXデザインチームが社内に提供可能な手法の明示
文化
- 取り組みの目的・価値・背景の理解・共有
- UXデザインの有効範囲についての理解・共有
組織
- 活動を行うUXデザインチームの編成
- 活動を続けるための育成・評価・採用の仕組み作り
プロセス
- 今までの仕事(業務プロセス)への統合
- 実務における継続的な実施
上記は組織的なUXデザインへの取り組みを推進するにあたって押さえておきたいポイントで、どの部分に着手するかは組織によって異なります。また、導入活動を進めるに当たって現状から将来に向けてステージごとにどのように組織に落とし込んでいけば良いかまで書かれており、目指すべき状態や導入活動におけるスタンスを理解したい場合におすすめです。
5. まとめ
本書から学べること
UXデザインは、専門的に設計やデザインに関わっている人や上の立場の人がやるものというイメージがある方も多いのではないでしょうか。
しかし、本書は職種や立場に関係なく、個人的にこっそり練習するなど、小さいことから実践できそうだと思わせてくれます。
本書は、UXデザインの概念や意義以上に、実際の仕事現場でどのようにUXデザインを取り入れていくかに焦点を当てた本です。
UXデザインといっても何から始めれば良いのかわからなかったり、概念を理解するだけで終わってしまうこともよくありますが、本書の通りに進めていけばうまくUXデザインを実務に取り込んでいけると思います。また、具体例やテンプレートなども豊富にあって、実践的に活用しやすい本なので本書を片手にぜひ組織にUXデザインを取り入れてみてください。
今回ご紹介した書籍の基本情報
- 書籍名:Web制作者のためのUXデザインをはじめる本 ユーザビリティ評価からカスタマージャーニーマップまで
- 著者名: 玉飼 真一、村上 竜介、佐藤 哲、太田 文明、常盤 晋作、株式会社アイ・エム・ジェイ
- 発行年月日:2016/11/1
- 出版社:翔泳社
- URL:https://amzn.asia/d/344thJ3
UX分析フレームワークの無料テンプレート
DESIGN αでも「AsIs/ToBeカスタマージャーニーマップ」「ペルソナ」「共感マップ」など、UX分析フレームワークのオリジナルテンプレートをご用意しています。
以下のページから無料でダウンロードいただけますので、分析やサービス改善にお役立てください。
UX調査をご検討中の方へ
「ユーザーの声や潜在ニーズが知りたい」「自社には調査部門がないから専門家に相談したい」「何社か調査会社を比較検討したい」というお客様のために、無料相談会やサービス案内資料をご用意しました。
調査に関する個別オンライン相談をご希望の方や、サービスラインナップや費用感が分かる資料のダウンロードをご希望の方は、こちらよりお気軽にお申し込みください。