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UI/UXリサーチ / 戦略設計

カスタマージャーニーマップが「作って終わり」になるのはなぜ?失敗する3つの共通点と活用されるマップの条件

カスタマージャーニーマップが「作って終わり」になるのはなぜ?失敗する3つの共通点と活用されるマップの条件

「カスタマージャーニーマップを作ったけれど、結局フォルダの奥で眠っている」「作った満足感だけで終わってしまい、現場の施策に反映されていない」

こうした悩みは、多くのマーケティング現場でよく耳にします。本記事では、カスタマージャーニーマップの活用が失敗する「3つの典型的なパターン」と、成果につなげるための本質的なポイントを解説します。

【関連記事】カスタマージャーニーマップの基礎

そもそもカスタマージャーニーマップとは何か、基本的な作り方や構成要素を知りたい方は、まずこちらの記事をご覧ください。無料テンプレートも配布しています。

1. なぜ多くのカスタマージャーニーマップが失敗するのか? データで見る現実

まずは、カスタマージャーニーマップ活用における「不都合な真実」を共有します。

米ガートナー社の調査(2019年)によると、82%の企業がカスタマージャーニーマップを作成していますが、そのうち効果的に活用できているのは47%にとどまるとされています。
つまり、半数以上の企業において、カスタマージャーニーマップは「作っただけの状態」になっているのが現実です。

出典:Gartner "How to Create an Effective Customer Journey Map"

なぜ、これほど多くのプロジェクトが作り損に終わってしまうのでしょうか。そこには明確な理由と、共通する落とし穴があります。

カスタマージャーニーマップの作成と活用

2. 失敗パターン①:事実に基づかない「妄想マップ」になっている

失敗事例として最も多く、かつ危険なのがこのパターンです。カスタマージャーニーマップを作る際、リサーチ(調査)を飛ばして、会議室の中だけで担当者の思い込みや「こう動いてほしい」という願望を書き並べてしまうケースが見受けられます。

なぜ、ビジネスの現場で妄想がまかり通ってしまうのでしょうか。そこには4つの心理的な落とし穴があります。

現場が陥る4つの勘違い

  1. 手法の誤解:「マップは想像で作るもの」だと思い込んでしまっている(本来は事実を整理するものです)。
  2. 心理的ハードル:「顧客にインタビュー調査をするのは気が引ける」「時間を奪うのは申し訳ない」という遠慮。
  3. 工数の見積もり不足:「リサーチ=大規模なアンケート調査やインタビュー調査」と捉え、予算や時間がないと諦めてしまう。
  4. 経験への過信による判断:「自分たちは顧客のことをわかっている」という、経験則によるバイアス。

「妄想」が経営リスクになる理由

事実に基づかないマップを信じて施策を打つことは、不正確な地図を信じて航海に出るようなものです。

的外れなカスタマージャーニーマップを用いてしまうと、無駄なLP(ランディングページ)改修や顧客が求めていない機能開発に予算を投じてしまうことになりかねません。これは単なる失敗ではなく、経営資源を浪費するリスクそのものです。

カスタマージャーニーマップの失敗:妄想マップ vs 事実マップ

解決策:たった1人の「N=1」でもいい

最初から完璧な調査を目指す必要はありません。

「直近で受注してくれた顧客1名へのヒアリング」や「営業担当の日報」「カスタマーサポートへの問い合わせ履歴」など、社内にあるファクト(事実)をかき集めることから始めてください。想像上の100人より、実在する1人の声の方が、マーケティングにおいては、はるかに価値があります。

もちろん、顧客の声はたくさんあるに越したことはありませんが、まずは1人からでも構いません。「妄想」ではなく、確かな「真実」を反映したデータから始めることを意識してみてください。

【関連記事】ペルソナ設定の重要性

「誰の」ジャーニーを描くのかを明確にするためには、ペルソナ設定が欠かせません。実在する顧客像に近づけるためのペルソナの作り方は、こちらで詳しく解説しています。

3. 失敗パターン②:ターゲットや範囲が「広すぎる・複雑すぎる」

2つ目は、「あれもこれも」と詰め込みすぎて、結局何が重要なのかわからなくなるパターンです。

例えば「20代〜50代の男女」といった広すぎるターゲット設定や、全部署の顔を立てるためにあらゆる要望を盛り込んだ結果、巨大な迷路のようなカスタマージャーニーマップができあがります。

「全員」を狙うと「誰でもない」マップになる

なぜ範囲を広げてしまうのでしょうか。その背景には取りこぼしへの恐怖があります。
「ターゲットを一人に絞ると、他の顧客層への売上機会を失うのではないか」という不安から、ターゲットを広げようとします。

しかし、マーケティングにおいて「平均的な顧客」など存在しません。
誰にでも当てはまる抽象的な感情や行動を追っても、そこから生まれる施策は当たり障りのない(誰の心にも刺さらない)ものにしかなりません。

解決策:「One Persona, One Map」の原則

カスタマージャーニーマップは、1枚にまとめる必要はありません。
むしろ、ターゲットごとに分けるべきです。「”One Persona, One Map”(1人のペルソナにつき、1枚のマップ)」を原則としてください。

まずは、自社にとって最も優先すべき(あるいは課題が多い)顧客一人に絞って作成します。そうすることで初めて、顧客の切実な課題(ペイン)が見え、鋭い施策が打てるようになります。

カスタマージャーニーマップの失敗:ターゲットの絞り込み

【関連記事】BtoBにおけるカスタマージャーニーマップの作成ポイント

決裁者が複数いたり、検討期間が長かったりと複雑になりがちなBtoBの場合、特にこの「絞り込み」と「フェーズ分け」が重要になります。BtoB特有のマップ作成法はこちらをご覧ください。

4. 失敗パターン③:カスタマージャーニーマップと施策をつなぐ「翻訳」が抜けている

最後にして最大の失敗要因がこの「翻訳プロセスの欠如」です。多くの企業で、マップ(分析結果)と日々の業務(現実)の間に断絶が起きています。

マップを作ったのに、翌日から「いつもの作業」に戻ってしまう

カスタマージャーニーマップが完成した瞬間、多くのチームは「さあ、サイトを作ろう」「広告を配信しよう」と、すぐに具体的な作業(Action)に移ろうとします。

しかし、ここに大きな落とし穴があります。マップに書かれているのは現状の事実であり、「何をすべきか(ToDo)」ではありません。

「マップ(Map)」→【空白の戦略フェーズ】→「アクション(Action)」

この【空白】を埋めるための「翻訳作業」を行わないまま進めると、結局「何をしていいかわからない」状態になり、これまで通りの既存のルーチンワークに戻ってしまうのです。

解決策:MapからActionへの「翻訳」プロセスを挟む

マップを絵に描いた餅にしないためには、マップ上の事実を具体的なアクションに変換するための「翻訳」プロセスが不可欠です。

具体的には、以下のように思考を変換します。

【ステップ1】Map(事実・感情)

  • 顧客の状態:「良さそうなサービスだけど、ウチの会社の規模で導入して大丈夫かな……(不安)」

【ステップ2】Strategy(仮説・戦略方針)←ここが「翻訳」

  • Why(なぜ不安か?):「大手向けの事例ばかりで、自社のような30名規模の会社での成功イメージが湧かない」からだ。
  • How(どうなれば解決か?):「自分と同じ規模の会社でも成功している」と認識させ、「規模やニーズに適合している」と感じてもらう必要がある。

【ステップ3】Action(具体的施策)

  • 導入事例ページに「従業員数別」のフィルタ機能を実装する。
  • 「従業員50名以下プラン」のシミュレーションを目立つ位置に配置する。

このように、不安がっているという事実に対し、思考停止で安心させようとするのではなく、なぜ不安なのか?どうすれば解消するか?という戦略・仮説を立てて、初めて成果の出る施策が生まれます。

カスタマージャーニーマップの失敗:MapからActionへの「翻訳」プロセス

【関連記事】事例で見るカスタマージャーニーマップ活用

実際にカスタマージャーニーマップから課題を抽出し、具体的な施策に「翻訳」してコンバージョンを倍増させた事例があります。活用イメージを掴むために、ぜひ参考にしてください。

5. 運用Tips:カスタマージャーニーマップを「生きた資産」にするために

最後に、カスタマージャーニーマップを一度作って終わりの資料ではなく、継続的に成果を生み出す資産にするための運用のコツを3つ紹介します。

1. 聖域化しない(汚してナンボの法則)

デザイナーが作った美しいPDFは、誰も修正できず、結果として誰も見なくなります。運用に必要なのは美しさより更新のしやすさです。

オンラインホワイトボードツール(MiroやFigJamなど)を用いたり、壁に貼った模造紙に付箋を貼ったりするなど、「気付いたことがあれば、誰でも書き込んでいい」というルールにしましょう。修正跡が多いマップほど、現場で活用されている証拠です。

2. 更新のトリガーは「定期」ではなく「違和感」

「四半期に一回見直す」と決めると形骸化します。

更新すべきタイミングは、マップの記述と、実際の数字(データ)が食い違ったときです。

例えば「マップでは『迷わず購入』と記載されているのに、実際のLP(ランディングページ)では離脱率が高い」といった違和感が見つかったときこそ、マップを更新し、顧客理解を深めるチャンスです。

3. 「Ver.1」と「Ver.2」の差分に注目する

カスタマージャーニーマップを更新する際、過去の内容を消さず、変更履歴として保存しておいてください。

「当初はこう思い込んでいたけど(Ver.1)、実は違った(Ver.2)」というズレこそが、チームが顧客について学んだ知的資産です。このバージョン間の差分を共有することが、チーム全体のマーケティング力を高めます。

6. まとめ

カスタマージャーニーマップは「魔法の杖」ではなく、単体で成果を生み出すツールでもありません。あくまで顧客を理解するための土台であり、チームが進むべき方向性を示す「地図」として活用することで初めて価値を発揮します。

  1. 妄想で作らず、事実(ファクト)を集める
  2. 全員を対象とせず、一人のペルソナに絞る
  3. 作って満足せず、施策への「翻訳」を行う

この3点を意識するだけで、カスタマージャーニーマップは「作っても使われないドキュメント」から「改善の方向性を示し、成果を生み出す羅針盤」へと変わります。

いきなり完璧なものを作る必要はありません。まずは社内に蓄積されているデータ(営業日報、問い合わせ履歴など)を見直し、手元にある事実から小さく始めてみてはいかがでしょうか。

その上で、一人でも構いませんので実際の顧客へインタビューし、その声をもとにカスタマージャーニーマップを更新していくことをおすすめします。「平均的な誰か」ではなく、一人のリアルな顧客を深く理解することが、改善につながる気づきを生み出す第一歩になります。

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