UI/UXリサーチ / 戦略設計
【ユーザーインタビュー実践記】東邦ガス様 1ドリンクサブスク「フラノミスタ」のユーザー調査を通じて得た学び
ユーザーインタビュー調査は、製品やサービスについてユーザーの生の声を直接聞くUXリサーチ手法です。ユーザーの思考・感情・価値観といった数値化が難しいデータを収集し、潜在的ニーズや課題を明らかにすることを目的としています。
私は今年から東邦ガス様のUXリサーチ案件の担当となり、ユーザーインタビュー調査から分析まで、アシスタントとして案件に携わりました。
本記事では、初学者の視点から、ユーザーインタビューを体験して得た気づきや注意点、学んだことをご紹介します。また、実際のユーザーインタビューの準備から分析までの過程も記載していますので、事例としてもご参考にしてください。
目次
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当ブログでは、下記の記事でもユーザーインタビュー調査について解説しています。
本記事と合わせてチェックして、ぜひあなたの事業でもユーザーインタビュー調査にチャレンジしてみてください。
1. フラノミスタのユーザーインタビュー調査の概要
フラノミスタとは
「フラノミスタ」とは、東邦ガス様が提供する、LINEをプラットフォームとした1ドリンクサブスクサービスです。月額550円(税込)で加盟店のドリンクを毎日1杯無料で楽しめる、お得なクーポンを提供しています。飲食店への集客や地域活性化に寄与することを目的とした画期的なサービスで、2022年に「日本サブスクリプションビジネス大賞2022特別賞」を受賞しました。
当社(株式会社リオ)は、サービス立ち上げ時から「フラノミスタ」のアプリ開発に携わり、リリース後のシステム保守・運用やUX改善まで継続的にサポートしています。
インタビュー調査の目的
今回の調査目的は、フラノミスタのヘビーユーザー(継続率や利用率が高い顧客)の特性を把握し分析することです。具体的には、以下の3点を調査します。
- 飲酒習慣
- 情報入手経路
- サービス評価
2. ユーザーインタビュー調査・分析の実施フロー
ユーザーインタビュー調査の実施前には、綿密な準備が不可欠です。インタビュー調査の準備には、対象者の選定、質問項目の設計、インタビュー当日の進行管理などが含まれます。
実際に準備を進める中で、事前調査の重要性やスムーズな進行のための工夫が大切だということが分かりました。実際に行った準備工程をご説明します。
ユーザーインタビュー調査の準備
ユーザーインタビュー対象者の選定
まずは、インタビュー対象者のリクルーティング(適切な対象者を選び出し、参加を依頼するプロセス)を行います。「ヘビーユーザー」を定義し、ユーザーデータベースの中から募集対象者を選定しました。
選定した対象者に対し公式LINEで募集をかけ、応募者の中から実際にインタビューを依頼する対象者をさらに選定します。多様な視点が得られるように、性別や年齢層、イベントの参加の有無などが偏らないよう配慮しました。
さらに、キャンセルに備えて予備の調査対象者候補も選定しました。目的に沿った条件を細かく設定し、適切な対象者を絞り込むことが、有用な調査結果を得るために重要なフェーズでした。
ユーザーインタビューの質問項目設計
質問項目は、目的に応じた結果を得られるように設定します。インタビューの流れに合わせ、タイムライン式で質問項目表を準備しました。この際、質問項目だけではなく、インタビュー開始前の概要説明やインタビュー後の謝礼に関する説明まで、必要な台本も予め用意しておきます。
パイロットテストの実施
さらに、事前にチームメンバーを調査対象者に見立てたパイロットテスト(本調査前に調査設計の改善点の有無を確認するための試験調査)をロールプレイング形式で実施。パイロットテストの結果を受けて、本調査がスムーズに進行できるよう調査項目を改善します。
今回のパイロットテストでは、私はインタビューの受け手役を担当し、実際にインタビューを体験しました。事前テストとはいえ、本番が上手くいくかどうかを確認する最終段階です。インタビューが上手くいくように、「この後どんな質問が続くんだろう?と疑問に感じた」など率直に意見を出しました。
ユーザーインタビュー調査当日
インタビューはオンラインで行いました。調査対象者には事前にマイク、カメラのテストを依頼していたため、トラブルはありませんでした。しかし、急なスケジュールの再調整や時間短縮を余儀なくされるなどの予定変更があり、インタビュー開始まで気を抜けません。
一般の方を対象者とした調査では、こうした急な予定変更はよくあることと想定し、調査対象者の1〜2割に予定変更が発生することを見越して計画・準備していたものの、当日は予定通り進むかどうかハラハラするものだと感じました。
今回のインタビュー調査では、調査目的に合った質問項目の設計や対象者の選定、予備候補の確保、パイロットテストの実施、さらに対象者への注意事項の事前連絡など、綿密な事前準備を行いました。その結果、予期せぬトラブルなどもなく、ユーザーの本音を捉えるインタビューが実施できましたが、準備に念をいれるに越したことはありません。
インタビュー調査結果の分析
調査結果を内容別にグループ分けして整理
インタビュー調査で得られた内容を元に、以下の項目に情報を大別して整理しました。
大カテゴリー内では、さらに詳細な項目分けを行いました。調査結果レポートを作るために、重要な工程です。
例えば、インタビューで得られたサービスの継続理由の中に「料金が手ごろだから」という意見が多数ありました。「月1回の利用で元がとれるから」や「月額料金だけで何店舗でも使えるから」など、どのようなニュアンスや言葉で語られたのかは、当然ユーザーによって異なります。そのため、「料金が手ごろ」という意見項目の中に各ユーザーの発言をそのまま記載する形でグルーピングしていきました。
このような分類や整理の作業を進める中で、インタビュー結果を正しく分析し・レポートを作成するためにも、録画や音声からの正確な書き起こしデータを確保できる作業環境の重要性を感じました。
ユーザーの声から満足・不満足をレベル分け
インタビューから得られた各項目を、「利用停止直結(とても悪い)」~「満足(とても良い)」という6段階にレベル分けし、それぞれの意見数も記録しました。振り分けは、インタビュー担当者と書記を務めた私とですり合わせし、分析調査を担当した私の主観を入れないよう客観的にまとめました。
弊社でレベル分けをする際の項目は以下の通りです。
- 利用停止直結(とても悪い)
- 不満(悪い)
- 使いづらい(良くない)
- 仕方ない(許容範囲)
- 使いやすい(良い)
- 満足(とても良い)
分析結果から課題の優先度を判断
調査結果データを分類し、意見数やレベルをまとめることで、ユーザーにとって緊急度の高い改善要望が明白になります。この調査分析結果をもとに改修施策を企画するので、優先順位の高い施策の中からどれを実施するべきか判断しやすくなります。
また、今回ヘビーユーザーの声を集めたことで、ライトユーザーとの飲み習慣や使い方の差も明らかになったので、このことも報告レポートに含めました。
3. ユーザーの本音を引き出すための工夫
オープンクエスチョンで質問した後、細かな切り口で確認する
例えば、「サービスに不満を感じる点があれば教えてください」と広く質問し、ユーザーがいくつかの回答をくれたとします。ただ、人が最初に答える不満点は、多くの場合目立った問題です。すぐに思い当たらなかった不満点を引き出すために、サービスの特性を細分化してより細かな切り口で質問を重ねます。そうすることで、より詳細な意見を引き出すことができます。
回答に詰まった場合は、質問の軸を変えてみる
例えば、「サービス利用時に不満を感じた点はありませんか?」と質問しても、不満点が思い浮かばない様子の場合、以下のように質問を変えてみます。
- 初めて使ったときに困ったことはありませんでしたか?
- 友達にこのサービスを紹介したことがないのは何故ですか?
このように、不満(心情)ではなく経験を尋ねる質問に変えてみることをおすすめします。そうすることで、過去のエピソードが想起され、有用な回答が引き出せる場合があります。
回答の曖昧な部分を補いながら、こちらがどう解釈したかを伝える
口頭でのやり取りでは、曖昧な表現やニュアンスを含むことが多いため、インタビュアーがユーザーの意図を確認するための質問をしながら理解を深めることが重要です。
この手法は、定性調査の専門用語で「プロービング」と呼ばれています。曖昧な回答を補完するだけでなく、ユーザーの回答を要約したり、オウム返しをしたり、「なぜそう思ったのですか?」と理由を聞いたりすることでユーザーの考えが整理され、本音を引き出しやすくなります。
4. ユーザーインタビュー調査で学んだこと
今回、私はアシスタントとしてユーザーインタビュー調査に参加しました。調査から分析までを経験し、効果的なインタビュー調査・適切な調査レポート作成には、目的に沿った対象者の選定や適切な質問項目の設計など念入りな準備が不可欠だと実感しました。
ご依頼企業のサービス改善に役立つユーザーインタビューにするにはどうしたら良いか、という視点は常に必要です。また、昨今のユーザーインタビュー調査はオンラインで行うことが多いため、接続の案内や録画など、オンライン特有の準備も重要だと認識しました。
今回実際のインタビュー調査に参加し、ユーザーと直接対面したことで、ターゲットユーザーの解像度が飛躍的に上がった実感があります。印象的だったのは、思っていたよりさまざまなライフスタイルの中でフラノミスタが活用されていたことです。
平日休みの方、子育て中の方、単身赴任中の方、友達同士での利用など、私が想定していなかったライフスタイルの中でサービスが使われていることがわかりました。
一方で、報酬目的でライトに利用を開始した方も見受けられ、想定していたターゲット層に限らず、サービスの利用が幅広い層にリーチしていることがわかりました。
やってみると実感することですが、頭の中で想定するだけでは得られない事実がユーザー調査では得られます。結果として、長くサービスを利用してもらうためのUX改善施策を提案しやすくなり、東邦ガス様側も打ち手を考えやすくなったと感じました。
5. 最後に
調査で得られたデータは「フラノミスタ」サービスの改善施策のベースとなり、改善提案の根拠として現在、活用できています。また、インタビューで利用者の生の声を引き出すことで、想定や憶測では得られない貴重な洞察をご報告することができました。
ユーザーインタビュー調査で得られた分析結果は、確実なマーケティング施策の根拠となり、より効果的な製品開発やサービス改善・UX戦略の立案に大きく貢献します。
企画からオンラインで行うための事前準備、対象者選定、対象者とのスケジュール調整、謝礼の手配、データの集計・分析まで考えると、事業会社様が自社内だけで行うのはかなりの負担となると感じました。社内に調査・分析の専門チームがない場合は、DESIGN αのような調査専門サービスに委託することをおすすめします。
DESIGN αでは、ユーザーインタビュー調査をリーズナブルな価格でご提供しています。
貴社のサービス(Webサイト、Webアプリ、ネイティブアプリなど)を利用している、または利用する可能性のあるユーザーに対して、DESIGN αの調査員が問題点や改善点を確認・発見するためのインタビューを実施します。さらに、制作・開発部門との連携により、調査/分析後のWeb/アプリの設計・デザイン・実装・運用までワンストップで提供可能です。
自社サービスの効果的な改善が必要だと感じている方は、ぜひ一度ご相談ください。