UI/UXリサーチ / 戦略設計
“品質”を分類するフレームワーク「狩野モデル」をUX改善に活かす方法
ユーザー体験(UX)の価値が近年ますます注目を集める中、企業が競争力を維持するためには、顧客ニーズに応える品質の追求が欠かせません。
本記事では、製品やサービスの品質を分析するフレームワーク「狩野モデル」について、基礎知識からUX改善に役立つ活用方法まで詳しくご紹介します。
1. 「狩野モデル」とは
狩野モデルは、1984年に狩野紀昭(かのう のりあき)教授が提唱した顧客満足度を分析する手法です。顧客の意見を基に製品やサービスの特性(機能や要素)を5つの品質要素に分類し、それぞれの特性が顧客満足度にどのように影響するかを明らかにします。
狩野モデルの実施プロセス
(1)調査により顧客の意見を収集
まずは、アンケートなどの調査により下記のような質問をし、製品やサービスの特性について顧客のニーズを収集します。
(例)
- 充足質問(肯定的な質問):「◯◯の機能があったらどう思いますか?」
- 不充足質問(否定的な質問):「◯◯の機能がなかったらどう思いますか?」
(2)品質分類によって顧客満足度を評価
次に、狩野モデルの分類表を用いて、回答の肯定・否定の組み合わせを基に、狩野モデルで定義されている5つの品質要素に分類し、顧客満足度を評価・分析します。
(3)改善ポイントの優先度を判断
最後に、分析結果に基づき、製品やサービスの改善点について優先順位を決定します。
この手法は、顧客のニーズを多面的に捉えて分析する点が特徴です。この分析結果を活用することで、企業は顧客の期待に応じた品質改善を実施することができます。
2. 狩野モデルの5つの品質
狩野モデルでは、品質の要素を以下の5つに分類し定義しています。
1. 魅力的品質(Attractive Quality)
顧客の期待を超えるような付加価値を生む品質です。満たされることで高い満足感につながる一方で、充足していなかったとしても不満にはつながりにくいのが特徴です。
一般に予測できない価値なので、多くの場合、イノベーションや新しい提案によって生まれます。
(例)
- スマートウォッチの健康管理機能
- 高級ホテルの無料アップグレードサービス
- ゲームのVRモード
2. 一元的品質(One-dimensional Quality)
あれば満足度が高まるが、ないと満足度が低くなるような品質要素です。製品・サービスの品質や性能と顧客満足度が単純な比例関係になるため、競争力に直結する重要な要素です。
(例)
- スマートフォンのバッテリー持ち
- レストランの料理の味
- 車の燃費
3. 当たり前品質(Must-be Quality)
顧客が当然あるべきと期待している品質です。これが欠けると大きな不満を招きますが、充実しても満足度はあまり向上しません。
(例)
- スマートフォンの基本的な通話機能
- 飲食店の清潔な食器や正しい注文提供
- Webサイトの基本的なナビゲーション
4. 無関心品質(Indifferent Quality)
顧客満足にほとんど影響を与えない品質要素です。あってもなくても顧客満足度に影響は与えず、開発や改善の優先順位が高くない要素となります。
(例)
- 取扱説明書のデザイン
- 医薬品のパッケージデザイン
- 季節ごとに変わるログイン画面の背景画像
5. 逆品質(Reverse Quality)
この特性が存在することで、かえって顧客の不満足度が高まる要素です。顧客のニーズが多様な製品・サービスにおいては、ある層には魅力的な機能が別の層には不便と感じられることがあります。製品開発やサービス提供時は、広い視野で顧客のニーズを理解し、慎重に検討する必要があります。
(例)
- スマートフォンの過剰な通知機能
- 自動的に再生される音楽や動画
- シンプルすぎる家電製品の操作パネル
3. 狩野モデルをUX改善に活用するための手順
狩野モデルのフレームワークは、ユーザー調査により顧客のニーズを理解した上で改善の優先順位を決めるプロセスをたどるため、顧客視点でのUX改善に有効です。効果的に狩野モデルをUX改善に活用するためのおすすめの手順をご紹介します。
①ターゲットの特定とペルソナ作成
まず、狩野モデルを適用するために、製品やサービスの主なターゲットを定義します。ユーザーのデモグラフィック情報(人口統計学的な属性)や行動特性、ニーズや価値観などを詳細に分析し、ペルソナを作成します。これにより、アプローチするユーザー像が明確化され、調査の効果を高めることができます。また、ユーザーリサーチやカスタマージャーニーマップを組み合わせることで、ユーザーのニーズや行動を深く理解し、特定のタッチポイントにおける問題点を明確にできます。
②ユーザー調査の実施
次に、ターゲットに対してアンケート調査やインタビュー調査を実施して、ユーザーの期待や意見を収集します。具体的には、以下のような内容でおこないます。
1. 品質項目の洗い出し
製品やサービスの品質に関する項目(機能や要素などの特徴)を洗い出します。
(例)スマートフォンの場合
- バッテリー持続時間
- カメラの性能
- 処理速度
- 防水機能
- デザイン性
2. 質問の作成
各品質項目に対して、充足質問(肯定的な質問)と不充足質問(否定的な質問)をペアで作成します。
充足質問:「スマートフォンのバッテリーが1日中持つとしたら、どう感じますか?」
不充足質問:「スマートフォンのバッテリーが半日しか持たないとしたら、どう感じますか?」
作成した質問に対して「気に入る・当たり前・何とも思わない・仕方ない・気に入らない」のように選択肢を用意し、アンケートを実施します。
この調査は、各品質項目を狩野モデルの5つの品質要素に分類して分析するための基盤となります。定量・定性の両面からデータを収集し、製品やサービスの品質に関する評価や満足度への影響度合いを調査します。
③データ分析と品質要素の特定
作成した2つの質問への回答の組み合わせを、分類表を用いて分析します。
例えば、充足質問に「気に入る」と回答し、不充足質問に「何とも思わない」と回答した場合、その組み合わせは「魅力的品質」となります。このようにして、製品・サービスのどの機能や要素が顧客満足につながっているかを特定します。
なお、充足質問に「気に入らない」と回答し、不充足質問にも「気に入らない」と回答するなど、相反する質問への回答が同じ場合、その組み合わせは「懐疑的品質」となり、その回答は疑わしいと捉えます。
④製品やサービスへの適用
分析結果に基づいて、優先的に対応すべき改善点を特定し、改善施策を実行します。一般的には、「当たり前品質」の担保、「一元的品質」「逆品質」の改善、「魅力的品質」の向上の順で優先度をつけて実施します。
⑤効果測定とフィードバック
改善施策の実施後、再度ユーザー調査を行い、製品やサービスの改善が顧客満足度にどのように影響したかを評価します。また、機能の実装や改善を優先度順に少しずつ行い、小刻みにテストを繰り返しながらその前後で効果を検証するのも有効です。
⑥継続的な改善のサイクル
フィードバックをもとに、製品やサービスの改善を継続的に実施します。改善のPDCAサイクルを回すことで、製品やサービスの品質を持続的に向上させていきます。また、実装後の顧客満足度や使用状況を継続的にモニタリングし、必要に応じて調整を行うことも重要です。これにより、顧客ニーズに柔軟に対応し、競争力を維持できます。
【関連リンク】
狩野モデルをUX改善に活用するための手順としてご紹介したペルソナ作成やユーザー調査の手法について詳しく知りたい方は、こちらの記事もご覧ください。
4. 狩野モデルを活用するメリット
狩野モデルの活用には、以下のようなさまざまなメリットがあります。
効果的な優先順位付けとリソースの最適化
狩野モデルによって、製品やサービスの顧客満足度が明確になれば、優先的に取り組むべき改善点が明らかになり、リソース配分の最適化に役立ちます。また、収集したデータ(顧客の意見)を根拠に施策の効果を客観的に評価するため、合理的な優先順位判断が可能になります。
製品やサービスの差別化
狩野モデルは、競合他社と差別化を図るための判断材料を提供し、企業が市場での独自性を確立する手助けをします。特に、「魅力的品質」「一元的品質」を特定し、それを向上させることで、製品やサービスの差別化を図り、独自の価値を提供できます。
マーケティング戦略の強化
狩野モデルを用いることで、企業は製品やサービスのどの品質が効果的に顧客に響くかを理解し、戦略的にマーケティング活動を展開できます。これにより、ターゲット市場への効率的なアプローチが可能になります。
データ駆動型の意思決定の促進
「データ駆動型」とは、収集したデータを分析し、その結果に基づいて意思決定を行うアプローチを指します。狩野モデルでは、主にアンケートなどのユーザー調査により、顧客ニーズと顧客満足度の関係を定量的に分析します。これにより、UX改善施策の効果を客観的に評価することができ、データに基づく合理的な意思決定が促進されます。
5. 狩野モデルの実施における注意点
狩野モデルを活用する上で、いくつかの注意点があります。これらを意識することで、より効果的に運用し、正確なインサイトを得ることが可能になります。
顧客ニーズの多様性への配慮
顧客のニーズは地域や文化、ライフスタイルによって異なるため、調査対象は慎重に選定し、多様な顧客層のデータを収集することが求められます。また、対象ユーザーに適した品質を提供するためには、セグメンテーションを行い、それぞれのニーズに応じたアプローチが必要です。
時代によるニーズの変化
ユーザーの品質への認識は時代によって移り変わります。
例えば、「魅力的品質」が時間の経過とともに「一元的品質」や「当たり前品質」に変わる場合もあります。このため、常に顧客のニーズの変化を捉え、品質属性の再評価を行う必要があります。
定期的な再評価と、それに基づいた品質改善に取り組んでいくことで、製品やサービスは競争力を維持し、顧客満足を向上させることができます。
データの偏りに注意する
調査の際、偏ったデータを収集してしまうと狩野モデルの実施結果を歪める可能性があります。そのため、ユーザー調査の精度を高めるためには、適切なサンプルサイズを確保し、データの信頼性を向上させる取り組みが欠かせません。
また、調査の設計や実施方法が不適切だと、誤った分析結果につながり、結果的に間違った施策にコストをかけてしまうことになるため、注意深い計画が求められます。
品質のバランスを意識する
「魅力的品質」や「一元的品質」にばかり注目していると、他の品質要素を疎かにしてしまいがちです。
これらの品質を追求しすぎると、ユーザーが求める水準を超えた過剰な品質になったり、その結果、コストの増大や開発期間の長期化を招く可能性があります。費用対効果を考慮し、全体のバランスを保ちながら、適正な品質を目指すことが重要です。
6. まとめ
狩野モデルは、顧客ニーズに基づいて製品やサービスの品質を分析するフレームワークです。プロダクトを特徴づける機能や要素の品質改善を目的とし、顧客ニーズと満足度の関係性や優先度を明らかにします。
競争の激しい市場で差別化を図る上で、狩野モデルは非常に有効なアプローチです。自社の製品やサービスに狩野モデルを活用し、継続的な改善のサイクルを確立することで、顧客の期待に応える製品・サービス開発につながります。
現代の市場では、ユーザーの期待やニーズがますます多様化しており、狩野モデルは、これらのニーズをより的確に把握する手助けになるでしょう。顧客層が異なると求める品質も変わるため、狩野モデルを活用した顧客中心の品質改善には、ターゲットを考慮することが重要です。
ぜひ、狩野モデルを用いた調査・分析結果を参考にしながら、自社の製品・サービスのUX改善に最適なアプローチを見つけていきましょう。
UX調査をご検討中の方へ
「ユーザーの声や潜在ニーズが知りたい」「自社には調査部門がないから専門家に相談したい」「何社か調査会社を比較検討したい」というお客様のために、無料相談会やサービス案内資料をご用意しました。
調査に関する個別オンライン相談をご希望の方や、サービスラインナップや費用感が分かる資料のダウンロードをご希望の方は、こちらよりお気軽にお申し込みください。